「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会」への当会の意見
1. 概要
- 厚労省が進める障害者支援施設の見直しは、「本人の意思・希望の尊重」「地域移行の推進」を柱としています。
- とくに「意思決定ガイドライン」により、意思表明が困難な人への支援のあり方が体系的に整理されました。
- これは、日本における 代行決定(substituted decision-making)から意思決定支援(supported decision-making, SDM)への転換を模索する試み と位置づけられます。
2. 強みと意義 意思の主体性を前提化
- 「本人に意思がある」との立場に立ち、コミュニケーション支援や体験機会を通じて選択肢を広げる方向性を示した点は重要です。
- 地域移行支援の具体化 グループホームや地域生活への移行を視野に入れ、施設のフォローアップ体制まで視野に入れている点は進歩といえます。
- 国際的潮流との接続 国連障害者権利条約(CRPD)が求める意思決定支援の理念を、国内政策に反映しようとする姿勢が見えます。
3. 限界と課題
- 「意思決定できない人」中心の定義 資料は主に「判断能力が乏しい人」を対象とする傾向が強く、「意思決定できる人に対しても常態化するパターナリズム」という本質的問題には触れられていません。
- グループホーム偏重 地域移行の選択肢がグループホーム中心であり、一人暮らしや多様な自立生活の制度的位置づけが曖昧。
- 国連総括所見が求める「社会との分離の解消」には十分応えきれていません。
- 技術化・形式化の危険 「意思決定支援」をチェックリスト化すれば「尊重しているフリ」になりかねません。
- パターナリズムの否定が自覚ではなく技術の仮面になれば、むしろ排除を巧妙に温存することになります。
4. 社会的文脈との接続
- 日本社会には祖霊信仰や家制度の歴史があり、「異質な存在を人目から遠ざける」文化的DNAが制度に刻み込まれています。
- 特養や精神病院が山間部に建てられ、障害者施設が郊外に置かれてきた背景もここにあります。
- グループホームもまた「地域の中にあるのに、地域から孤立した場」となりやすく、この文化的傾向を引き継いでいます。
5. 現代社会への問い
- イリイチが告発したように、技術は単なる道具ではなく思想であり仮面である。
- 医療は「技術の伏魔殿」として、本人の自由を覆い隠す典型です。
- 福祉もまた「意思決定支援」という仮面をまといながら、新しい形のパターナリズムを生み出す危険を孕んでいます。
6. 結論
- 厚労省の報告は、日本の福祉政策にとって前進でありつつも、社会全体に浸透したパターナリズムの克服には踏み込めていないのが現実です。
- 本当の意味での意思決定支援とは、 「意思決定できない人の支援」に限らず、 「意思決定できる人の自由を守ること」も含まれるはずです。
- この視点を欠けば、制度は「仮面」となり、排除をより見えにくくしてしまうでしょう。
検討会資料
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
意思決定ガイドライン

